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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)427号 判決

主文

原判決を破毀し本件を東京高等裁判所に差戻す。

理由

辯護人吉田閑及菅野勘助の上告趣意第一點は末尾添附別紙記載の通りである。

原審公判において辯護人は人證として渡辺二郎、吉沢金作両名の訊問を求めたに拘らず原審はこれを却下しながら右吉沢提出の被害始末書及右渡辺に對する司法警察官の聽取書を證據に採って事実の認定をしたことは記録によって明らかである。日本国憲法の施行に伴う刑事訴訟法の應急的措置に関する法律第十二條第一項所定の書類の供述者又は作成者に付き人證としての訊問申請があったときは同條に基く訊問申請と解するを相當とすること當裁判所の判例とする處である(昭和二十二年十一月二十六日言渡同年(れ)第六號事件判決)。そして同法條にいう「被告人の請求」中には被告人を代理して爲す辯護人の請求をも包含するものと解すべきは勿論である。されば原審の前記措置は右法條に反する違法のものといはなければならない。尤も記録によれば裁判長が被告人に對し右法條所定の供述者又は作成者の訊問を求むる權利ある旨を告げて其の意思ありや否やをたしかめたのに對し被告人は「なし」と答へ其の後に辯護人から前記申請が爲された事実であることがわかるから或は原審は右辯護人の申請は被告人の意思に反し無效のものであるとの見解の下にこれを却下したのかも知れない。しかし右の様な場合における被告人の「なし」との答は特に反對に解すべき事由の無い限り辯護人が申請をすることにまで反對するという程の強い意味のものではないと解するのが相當である。つまり被告人は只自分としては特に何等欲する處はないという丈けで辯護人に一切任かせてある趣旨と見るべきであろう。本件では記録上特に反對に解すべき事由は何も見られないのみならず辯護人の申請に對し被告人は終始反對の意思を表明しなかったこと及び被告人の供述と前記書類の内容とは必ずしも全面的には一致して居ないこと等から見て尚更前記の様に解するのが相當である。されば前記の違法で原判決は破毀を免れないから他の論點に對する判斷を省略して刑事訴訟法第四百四十七條第四百四十八條の二に從い主文の如く判決する。

以上は當小法廷裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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